高校生の皆さんに

MRIとPET -- 医療現場の最前線から 

 
最近、脳の働きやアルツハイマーなどの脳の病気の研究・診断が盛んですが、医学・生物学的な方法に加えて高度な科学計測技術がそれらを支えています。1−2の例を紹介しましょう。

MRI

MRI

図は、MRI(Magnetic Resonance Imaging;磁気共鳴画像法)で得られた脳の様子です。

このような図を作るには、人間の体に多く含まれる水分子の中の水素原子を用います。水素の原子核は、陽子そのものですが、陽子はいわばコマのような性質があり磁場をかけるとコマの軸が磁場の方向にそろいます。

これに電磁波をかけて軸の向きを無理やり反対にしてやります。その後電磁波を切ると、今度は、電磁波を放出して元の状態に戻ります。元の状態に戻るまでの時間は、組織や病変により異なります。

この放出された電磁波を脳の周りの色々な場所で測定し(これが計測に当たります)、脳の状態がどのようになっていれば測定された電磁波と一致するかをコンピューターで解析することにより(これが、モデリング・シミュレーションです)上のような図が得られます。

PET

 次の例は、PET(ペット)です。ペットボトルではなく、Positron Emission Tomographyの略です。これは、「腫瘍のかたちを見る」診断とは異なり、「腫瘍の機能をみる」、つまり機能画像診断として注目されています。

原理を簡単に説明すると、細胞はブドウ糖をエネルギー源として使っていますが、ガン細胞は正常細胞に比べて活発なため、ブドウ糖をたくさん取り込みます。そこで、ブドウ糖の一部を放射線を出すブドウ糖に置き換えると、ガン細胞の方が多くの放射線を出します。

この放射線を脳の周りの色々な場所で測定し、MRIと同じようなやり方でコンピューター解析を行い、「より活発に活動する細胞」、すなわちガン細胞の位置を知ります。これらの例で、計測・モデリング・シミュレーションの具体的なイメージが、ある程度つかめたと思います。

がん治療

 医学の話しに偏りますが、ガン治療の例を見てみましょう。

ガンの主要な治療方法はやはり外科手術と考えられていますが、脳腫瘍・肺ガン(アスベストで急増)など手術の困難なガンの治療に、高いエネルギーを持った炭素や酸素などの原子核ビームを照射する方法があり、日本でも千葉県の放射線医学総合研究所で多くの臨床例があり、実績を上げています。

この場合、放射線をガン細胞だけに当て正常細胞にはなるべく当てないようにしないと、副作用が生じる恐れがあります。ところが、人間は呼吸をしているため常に動いているので、X線撮影の時のように「はい、息を止めて」という数秒間より長い時間照射しようとすると、どうしても正常細胞を傷つけてしまいます。

これを避けるには、人間の体の動きをとらえ、その変化に合わせてビームのねらいを変えるという方法が有力です。そのために、肺の位置をしっかりと計測し、ビームの位置を制御している機器に情報を送り、人間の位置変化に会わせてオンラインでビームを動かす、という一連の操作をコンピューターの力を借りて、間違いなく行わねばなりません。

 

 以上のように、我々の気づかないところで高度な測定技術が使われていることがわかったと思います。そうした事に基礎になる勉強を基礎理工学科では、しっかりと身につけていきます