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木村和広 准教授,博士(学術)

略歴

高校のころから、物理学、数学に興味を持ち、相対性理論の啓蒙書を読んでさらに勉強を続けたいと考え、信州大学物理学科に進学しました。特に、物理学の中でも理論物理学、数理物理学に興味をもち、神戸大学大学院の修士課程、博士課程に進学しました。大学院では、素粒子物理学、場の量子論を中心に勉学、研究をしてきました。物理学の本質は、自然現象に対し幾つかの基礎法則を発見し、ある現象に対して基礎法則から方程式を立てて解を求め、演繹的に現象を説明することである。しかしながら、現実の現象に実際に法則を当てはめると方程式が複雑になり厳密解を求めることができない。その中でも可解模型と呼ばれる模型は、厳密解が求まり、数学の分野、特に無限次元解析と密接に関連し、それらの数学的性質を研究を中心行っている。学位修得後は、大阪工業大学で嘱託講師を経て、本学の工学部第2部に着任し、現在は量子論の基礎論と量子コンピュータへの応用として、量子誤り訂正理論、量子符号理論の研究も目指している。

専門分野

低次元量子場の理、無限次元解析、

担当科目

微分積分学1、2線形代数学1、2、応用解析

主要論文

  1. Kazuhiro Kimura, Free Field Represantation of Quantum Superalgebra, Proceedings of the Sixth International Wigner Symposium, 2002, 709-716.
  2. Kazuhiro Kimura ,Jun'ichi Shiraishi and Jun Uchiyama, A Level-one Representation of Quantum Affine Superalgebra $\Uqmn$, Communi. Math. Phys. 180(1997), 367 - 378.
  3. Kazuhiro Kimura,Hamiltonian Reduction of Super Osp(1,2) and Sl(2,1) Kac-Moody Algebras,Int.J.Mod.Phys., A7S1B(1992), 533-544.

研究紹介

 今世紀初頭に始まった相対性理論と量子論、それらを基礎にして発展した物理学の諸分野を総称して現代物理学と呼んでいるが、現在までの発展も目覚ましく、極微の世界から宇宙までを包括するあらゆる分野にわたって展開されている。また基礎理論のみでなく、その成果は幅広い分野に応用され、ハイテクの基礎となっているのみならず原子爆弾、放射能汚染などの脅威を生み出していることも事実である。量子論の基礎は量子力学であり、扱う自由だが無限大になるとき量子場の理論となる。量子力学によれば、ハミルトニアンが与えられ初期状態が与えられると、原理的にその後の状態は完全に決定される。しかし実際は、系のサイズが無限大となる場合に興味があることが多く、たとえハミルトニアンが単純でもその解析は非常に難しく、多くの場合近似に頼らざるをえない。その近似が系の本質的な性質を捉えていればよいが、これを近似の範囲内で証明することは難しい。このような意味で、系の厳密解が求まることは非常に重要であり、特に近似の妥当性が問題となる相関の強い系に対しては不可欠である。

 系の自由度が大きくなっても、時間発展に対して不変となる保存量がそれににみあうだけたくさん存在すれば、系を解くことができる。2次元の物理系においてそのような可能性を保証する式としてYang-Baxter方程式がある。Yang-Baxter方程式の発見以来、この方程式の解を構成する努力が続けられ、今では無限に多くの解が知られるようになった。1970年代後半から2次元の場の理論でソリトンが現れる理論が盛んに研究され理解が著しく進んだ。ソリトンは非線形な場の方程式の解で、エネルギーが1カ所に集まった粒子のような性質を持ち、互い衝突して散乱してもその形が崩れないという性質を持っている。このようなソリトンの場の理論は、このソリトンの安定性を保証する無限個の保存則をもち、このためn個のソリトンの衝突における散乱振幅(S行列)が2個のソリトンの散乱振幅の積に分解できる。このときの分解の仕方によらず散乱振幅が求められる性質からYang-Baxter方程式が得られ、2個のS行列を完全に求めることができる。このようにして、sine-Gordon模型、非線形シグマ模型などの一連の2次元場の量子論の厳密なS行列が求められた。これは量子場の理論で厳密な結果が得られた初めての例であり、これらの厳密に解ける場の理論を可積分理論、厳密に解ける模型を可解模型と呼んでいる。

 2次元共形場の理論も一種の可積分理論である。共形場の理論は共形変換(2つの微小線分のあいだの角度を変えない変換)のもとで不変性となる場の理論であるが2次元では共形変換は無限次元のリー群を作り極めて高い対称性をもつ。このため、S行列、各種演算子の相関関数を厳密に求めることができる。2次元のソリトン理論や共形場の理論は一般の場の量子論の立場から見るといくぶん特異なものと考えるかもしれないが、これらの理論の興味は厳密解において初めて見える現象を追求でき、場の量子論の本質を捉える可能性がある。

 臨界点上の物理現象に限ると、ハミルトニアンは空間の各点で異なる比率での共形変換で不変となり、無限次元のVirasoro代数で記述される対称性をもつこととなる。2次元量子場の状態空間であるヒルベルト空間は無限次元規約表現の有限直和に分解でき、ハミルトニアンの対角化ができエネルギー準位を求めることができ、さらにKnizhnik-Zamolodochikov方程式と呼ばれる微分方程式を解くことにより任意の相関関数を計算することができる。

 また臨界点直上以外において解ける統計模型はもはや共形不変性は存在しないが、可解を保証するYang-Baxter方程式と密接に関係している量子群と呼ばれる対称性を持つものがある。XXZ模型、ハバード模型、超対称latex math image模型などの1次元量子スピン鎖も可解模型で量子化したアフィン代数で記述される量子群の対称性をもつ。反強磁性XXZスピン鎖に関してはベーテ仮説法を利用することにより、反強磁性XXZスピン鎖ハミルトニアンを対角化でき基底状態、励起状態ベクトルを記述できるが、一般の相関関数を計算することはできなかった。これを改善すべく、京都大学の三輪、神保グループが量子群latex math imageの対称性の表現論の枠内でハミルトニアンを対角化し、表現空間のウエイトベクトルと、模型の状態ベクトルが一対一に対応していることを示し、さらにlatex math image点相関関数の積分表示を導出した。

 超対称性をもつアファイン 超Lie代数で表される量子群の対称性があるスピン模型は高温超伝導を説明する重要な模型の候補でもあるが、XXZ模型と同様に表現論の規約分解の方法で厳密に解ける可能性がある。これまでは超対称性の特徴を的確に利用して統計模型を解くことがまだ十分なされていない。そこで、無限次元代数で表される量子化されたアフィン超Lie代数の対称性の表現論を利用して、無限自由度の物理系の厳密解、真空の相転移の構造を調べる。まずは超対称性をもつ可解模型の無限次元の状態空間において、超対称性表現の構造を解明する。さらに、量子変形された頂点関数演算子の演算子積展開を利用することにより、量子変形された超対称スピン模型の相関関数の積分表示を導出することができる。

 

 latex math imageのレベル1での表現を量子変形されたボゾン場で構成して、この場のFock空間上での表現を定め、latex math imageに対しては表現の指標を予想した。今後は、さらに量子変形された頂点関数演算子とそれらの演算子積展開を導き、これを利用して超対称不変なlatex math imageの対称性をもつ$t-J$スピン模型のハミルトニアンを対角化して、latex math image点相関関数の積分表示を導く。さらに、量子化されたアフィン超Lie代数をハミルトニアン縮約することにより変形された超Virasoro代数を導出できることが予想される。この代数の表現の構造を調べることにより超対称をもつスピン鎖の物理量を完全に導出できる可能性があり有力な手法を得ることになる。

 超対称latex math imageスピン模型はベーテ仮説法で解くことができいくつかの海外のグループで研究が進められている。我々の方法との関連性を調べることも重要である。また、我々の方法での解は臨界点を離れた領域に対応し、極限操作で共形場理論で解いた状態関数に一致すると予想されるが、共形場理論の立場からスピン模型を考察した研究との関係を解明することも重要となる。

高校生の皆さんに向けて

凝集モデルとシミュレーション

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量子テレポーション

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