基礎理工学科大阪電気通信大学・工学部 |
当日は残念ながら曇り空でしたが、日照計では日食によるもと思われる日射量の現象を捕らえることができました。
オレンジ色の線が日射量(solar radiation)、赤色の線が気温を示しています。
2009年7月22日(水)の午前中に中国大陸から太平洋上にかけて今世紀最大といわれる皆既日食が観測されます。大阪府寝屋川市でも食分0.8以上の部分日食が観測できます。皆既日食を観測できるのが一番ですが、部分日食も十分に観測を楽しむことができます。観測のコツを書いてみます。
日食は「太陽」と「地球」、「月」という三つの天体が織り成す自然現象です。三つの天体が、太陽−月ー地球という順番で並ぶときに観測できます。地球から見ると月によて太陽が蝕まれるように見えることから、「日蝕(日食)」と呼ばれてきました。太陽−地球−月の順番に並ぶと、月が地球の影に入るため月食が起こります。他の惑星、例えば、火星が月に隠れる火星食などもあります。
ここでそれぞれの比を取ります。平均距離の比は、Ls:Lm=389:1。平均直径の比はDs:Dm=401:1、となり、ほぼ同じ比率になっていることがわかります。 従って、地球から見ると、見た目の大きさは月も太陽もほとんど同じ大きさに見えます。見た目の大きさは距離によって変わるため、見た目の大きさを統一的に表す量として、対象物を見込む角度で測った視直径という量が使われます。太陽の視直径はおおよそDs/Ls=9.3mrad=0.53度、月の視直径はおおよそDm/Lm=9.0mrad=0.52度とほぼ同じ大きさになります。ちょうど、50円玉か5円玉手を持ち、腕をいっぱいに伸ばして、その穴を覗き込んだ大きさに相当します。
そのため、地球から見たときに、月と太陽が同じ方向に位置していると、太陽が月に隠されて見えるようになります。
実際には、地球が太陽の周りを回る公転軌道も、月が地球の周りを回る公転軌道も楕円軌道を描くため、地球から太陽や月までの距離は変化します。このため、月の視直径が太陽の視直径よりもわずかに大きくなる場合や、わずかに小さく場合があります。また、月の公転軌道は地球の公転軌道に対して約5度傾いているために、太陽、月、地球の位置関係が変化するために日食の見え方が変わってきます。
月の視直径が太陽の視直径よりも大きくなると、太陽が完全に隠れるため皆既日食(Total Eclipse)となります。このとき、月の影(本影)が地上に落ちる部分では皆既日食が観測できます。この地域を皆既帯と呼びます。また、皆既帯の周辺部では、部分日食(半影)が観測できます。
太陽の視直径が月の視直径よりも大きくなると、太陽が完全に隠れずに太陽の縁が環状に見えるため金環日食(Annular Eclipse)と呼ばれます。このとき、月の影(本影)は地球には届いていません。
太陽と月、地球の位置関係がずれると、月の影(本影)が地球からそれてしまうため、地球上では部分日食しか観測できません。
太陽が月に隠される割合を食分という量で表します。
食分=(太陽の視半径+月の視半径−太陽と月の中心間の視距離)/太陽の視直径
国立天文台の暦計算室のWebサイトで、2001年から2035年までの間に起こる日食が、地球上のある場所でどのように見えるかを調べることが出来ます。URLは、こちら。
2009年7月22日の皆既日食が、大阪電気通信大学の寝屋川キャンパスでどのように見えるかを、このサイトを使って計算してみました。
食の始まりは午前9時47分15秒、食の最大は午前11時5分42秒、食の終わりは午後12時25分29秒です。最大の食分は、0.818となります。
南東方向に開けた場所で、午前11時前後に観測するのが良いようです。
日食で光量が減るとはいえ、太陽の光は強烈です。しかも可視光だけでなく、人の目には見えませんが紫外線や赤外線まで、幅広い波長の光がでています。強すぎる光は波長に関係なく目には有害です。絶対に直視してはいけません。ましてや、双眼鏡や望遠鏡などレンズなどを使って見ることも危険です。サングラスでも不十分です。ガリレオをはじめとして、太陽の観測によって失明した研究者は数多くいます。
以前は、ガラスに煤を付けたものや、黒い下敷き、感光したフイルムなどで太陽を透かして観察することがありましたが、現在では、これらの物では不十分であることが分かっています。これらも観測には使わないこと。
日焼け止め対策や熱中症対策も忘れずに。
もっとも安全かつ手軽な方法はピンホールを使って、ピンホールカメラの要領でスクリーンに映る太陽の像を観測する方法です。
鉛筆の先くらいの丸い穴を厚紙などに開けて、その穴を通ってくる光を白い紙などに写せば、欠けていく太陽の像を観測することができます。黒点なども観測できます。
小さな穴の開いたものなら、なんでも使えます。磁気カードのパンチ穴、ねじ穴、硬貨の穴、親指と人差し指で作った輪、などなど、身近なものを使って観測してみるのもよいでしょう。穴がたくさん開いていると、三日月のようになった太陽の像が重なり合って映し出されるので、とても幻想的な像が観測できます。
ピンホールを覗き込んではいけません。危険です
クリックすると拡大した画像が表示されます。
(1)材料:ポテトチップスの筒や、光が透けない程度のちょっと厚手の紙でできた箱など、なんでも利用できます。牛乳パックなど光がすけるようなものでも出来ますが、アルミフォイルなどで包んで遮光してやればよいでしょう。
(2)作り方:写真のように片側に画鋲やマチ針などで、小さな穴を出来るだけきれいな円になるように空けます。穴をあけたのと反対側に太陽像が投影されるので、像が見やすいように窓穴を切り抜きます。
(3)使い方:ピンホールを太陽に向けて、太陽の像が写るように角度を調整します。数ミリ程度の大きさの太陽の像が見えれば成功です。
(4)応用:適当な間隔で複数個あけると、複数個の太陽の像が投影されて面白いでしょう。また、筒の長さを長くすると、像の大きさが大きくなり、より観測しやすくなります。人が入れるような大きな段ボール箱などで作ってみると、より面白い観測ができるでしょう。
手鏡など小さな鏡で太陽の光を反射させ、遠くの壁などに光を映すと、太陽の像が観測できます。鏡の直径と壁までの距離を、1:200程度(太陽の半径と距離の比)以上にする必要があります。ピンホールと同じ原理で、太陽の像が遠くの壁に映ります。鏡を紙などで覆って光が当たる面積を小さくすれば、距離を短できるので、設定がやりやすくなります。
鏡を覗き込んではいけません。危険です
こんないびつな鏡でも、
距離を十分に取れば、ちゃんとお日様の姿が投影されます。
「日食めがね」、「日食グラス」などの商品名で売られている減光フィルターつきの眼鏡を利用します。昔の製品は減光が十分でない場合が多いので、最近の減光率が保障されたものを使います。この眼鏡を使うことで、欠けていく太陽を直接みることができます。ただし、連続して観察するのは目安として10秒以下程度にし、次の観測は数分ていど目を休ませてからにします。特に子供さんは、夢中になって凝視してしまうので、周囲の大人が注意してください。
天体望遠鏡に、専用の太陽投射板をつけて、太陽の像をスクリーンに投影して観察します。
絶対に覗き込んではいけません。危険です
太陽投射板を付けた天体望遠鏡
投影された太陽像
「ソーラースコープ」などの諸品名で売られている、天体望遠鏡と投射板が一体となったような簡易型の器具があります。
十分な減光フィルターと、太陽光のうち水素(H)の出すHα線(赤、波長656.28nm)のみを通す特殊なフィルターをつけた望遠鏡です。直接、肉眼で覗くことができます。太陽の周りを取り巻く水素ガスの像(彩層像)を見ることが出来るので、プロミネンスなどの太陽のダイナミックな活動の様子も観察できます。 CaK(カルシウムのK線)だけを通すフィルターを搭載したCaK太陽望遠鏡もあります。
火事になる危険があるので、注意が必要ですが、太陽光を焦点にあつめると、小さな欠けた太陽の像が映ります。虫眼鏡は単に光を集めているのではなく、太陽の像を写していることが分かります。
絶対に覗き込んではいけません。危険です
観測時刻と、そのときの太陽の方角、高度を測定するために使います。棒を鉛直に立てて、その影の方向や長さを測定することで、太陽の方位と角度を調べます。
ビデオやカメラで、直接、太陽を写すには、特殊な減光フィルターが必要です。また、太陽をそれなりに十分な大きさで写すためには、20倍以上の光学ズームが必要です。太陽を直接撮影するのは難しいので、ピンホールでスクリーンに移った像や、木漏れ日、影などの周囲の現象を記録すると良いでしょう。
日食による気象の変化を観察することができます。
日照計
これらの機器を使って、部分日食を観察する手順の一例を紹介します。
時刻と、太陽の方位、角度を記録します。同時に、ピンホールなどで白い紙に、太陽の像を写し取ります。黒点などが見られればそれも一緒にスケッチします。このとき紙の上下左右が分かるように記録します。
これを日食の始まりから終わりまで、たとえば15分おきなど適当な時間間隔で行います。
観測が終わったら、スケッチを並べて、時刻と食分の関係を整理します。また、太陽と月の位置関係がどのように変化しているか、太陽がどちら側から月に食われているか、などを整理し、月と太陽の軌道や運行方向の関係を考察します。
時刻と食分の関係とあわせて、気温や湿度の変化、気圧や照度の変化を記録します。太陽光が気象に与える影響について考察します。
日食が進むに従って、建物などの影の輪郭が徐々に鮮明になってきます。ビデオなどで記録しておき、食分の大きさと鮮明さの関係、なぜ輪郭がシャープになるのかなどについて考察します。
木の葉の重なり合う間の隙間は、ピンホールカメラの集合体のようなものです。はっきりとは分かりませんが、普段は木漏れ日はやわらかい丸い形をしていますが、日食がはじまると三日月形の幻想的な形が織り成されます。その模様の変化を、日食の進み具合とあわせて、ビデオなどで記録しておきます。
虫や鳥など、身近にいる動物の様子を観察してみます。日食に反応た行動をとっているかもしれません。たとえばせみの鳴き声や雀や鳩の行動に注目してみましょう。
日食観測に役立つリンク集です。
LIVE! UNIVERSEによる日食のライブ映像LIVE! ECLIPSE