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時間の進みが遅くなる?速くなる?

 去年はアインシュタイン生誕100年記念の行事が各地であったので、相対性原理に関する話題を聞かれた人も多いと思います。相対性原理というのはアインシュタインの専売特許のようですが、もっと古くから有り、ガリレオのが最初でしょう。しかし何と言っても、アインシュタインのは奇妙な予言(予測)が色々つきまとうので、どうしても興味を引かれますね。たとえば、有名な「双子のパラドックス」。これは、同時に生まれた双子の兄弟が、一人はものすごい速さで地球から飛び出していき、どこかの星をまわって、再びものすごい速さで地球に帰ってくると、地上にいたもう一人より年が若いというもので、相対性理論によればそれは正しいという話ですね。これの説明は、色々なところに書かれているし、ここではそれを繰り返しません。ただし問題の一つは、「ものすごい速さ」という所にあり、実際顕著な効果で観測されるためには、光の速度の半分とか1/3とかの速さで移動しないといけない。しかし現実のロケットなどの速度はせいぜい光の速度の1/10,000位なので、まずそんなに遠くへも行けないし、効果もほとんど無い。当面そんな速い乗り物が出来そうにもないので、こうした話が実際に起こるのかはそう簡単に実験できない事になります。
 しかし、これはアインシュタインの話が本当かどうかわからないと言うことではありません。実際早く動いているものの時間はゆっくり進むのです。これが、はっきり見えるのはカーナビにも使われているGPS(Global Positioning System ;全地球測位システム)衛星の時計。しかしこの説明はちょっと話が長くなるので、詳しくは大学に入学してから勉強しましょう。ここでは、もっと直接に時間の進み方を見る話をしましょう。それは、宇宙線の観測です。
 宇宙には、非常な高速で飛び回っている陽子(水素の原子核)が存在し、これが地球の大気と衝突すると核反応(原子核が壊れるような荒っぽい反応)を起こし、非常な高速で運動するいろいろな奇妙な粒子やガンマ線(エックス線よりもっとエネルギーの高いエックス線と思えばよい)が発生します。これの発生する地点は地球上約30-40 km位の上空です。発生した粒子の大部分は大変寿命が短くすぐ壊れてしまうため、地表までは到達しませんが、その中でミュオンという粒子(重さが電子より200倍くらい重い電子の親戚)だけは比較的寿命が長く(百万分の数秒位で電子と二つのニュートリノという粒子に壊れる)、何とか地表に到達します。さてここで問題は、百万分の数秒の間に光速で移動できる距離はいくらかです。これは、例えば(百万分の2秒)x(光の速度300,000km/s)で、答えは600 mです。光より早く移動する事は出来ないので、百万分の数秒で壊れる粒子はせいぜい600m程度しか移動できないはずなのに、なぜ30 kmもの距離を飛んでくるか?これこそ、まさに光速に近い速さで移動する物の時間はゆっくり進むと言うことの証拠の一つです。実際この場合は30 km /600 m = 50倍もゆっくり進んでいる(寿命が50倍のびている)ことになります。(実はこれは乱暴な議論で、正しくはありません。より正確には、こちらへ。)