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振り子の周期と次元解析

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皆さんを含めて,私たちが数学を学ぶ目的は何でしょうか?授業科目にあるから;入学試験科目にあるから;「勉強しなさい」と言われるからなどと,いろいろな理由があるかもしれませんが,やはり,数学は世の中の役に立ちます.数学を用いると,種々の自然現象や社会現象を解明することができるのです.また,数学の論理を知ることにより,人と人との間で的確なコミュニケーションが可能となります.ここでは,高校数学を用いて,振り子の周期の問題を考えてみたいと思います。

単位・計測・次元

長さ,質量,時間のような量を計測するということは,1m,1kg,1秒のような単位を定めて,その量が単位の何倍であるかを知ることです.長さについては,1 cmという単位で測っても良いですが,1cm = 0.01m,1m = 100cmのように,適当な定数をかけることにより換算が可能です.このように,同じ単位で測れる量は,同じ次元を持つといいます.長さ,質量,時間を基本次元といい,それぞれ L, M, T で表します.また,量 A の次元を [A] と表します.たとえば,基本次元については
   [長さ] = L,   [質量] = M,   [時間] = T
となります.いろいろな量に応じて測る単位がありますが,面積は m2, 速度は m/sec のように,身の周りの量は上記の3つの単位の組み合わせ(乗除)で測ることができます.例えば,たて a m よこ b m の長方形の土地の面積は ab m2 で,直線上を運動している物体の latex math image 秒間の変位を latex math imagem とすれば,速度は latex math imagem/sec となります.このとき,次元についても,[面積] = L2, [速度] = LT-1と考えます.以上をまとめると
latex math image,   latex math image  (次元の積法則)
となります.この積法則を用いると
[加速度] = [速度/時間] = LT-2,   [力] = [質量・加速度] = MLT-2
などの計算ができます.

次元解析

長さ1mの丈夫な紐に重りをつけた振り子を,あまり大きくない変位で振らせると,周期:ある点から左右両側に振れて,もとに戻る時間は約2秒です.重りの重さを変えても周期は変りません(ガリレイの発見!).紐を50cmにしてみても周期は半分にならず,25cmにして(半分の)1秒になります.従って,紐の長さを latex math imagem,周期を T0sec とすると
   T0 = 2latex math image
という公式が成り立ちそうです.これは,正しいでしょうか?

例えば,重りを鉄の球にして真下に磁石を置くと,振り子の動きは変り,周期も変ります.したがって,振り子の運動には重りを下に引っ張る力も関係していることが分かります.すなわち,重力が関係しているのです.ここで,数学を使ってみましょう.重りの質量を latex math image,重力加速度を latex math image (= 9.80665 m/sec2)として,周期は量latex math imageで定まると考えて
   T0 = klatex math image (k は定数)
とおきます.どうしてこのような形の式として良いか? というのには,ひとつ理由があります.それは,計測の単位を変えると(例えば m を cm に,kg を g に),latex math image, latex math image, latex math image となります.このときに,周期も T0 = d T0' となるはずですが,このようになるのは,T0 が上式のように表されているときに限ります.
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次元の積法則より
  latex math image
となるので,両辺を比較すると
latex math image,   latex math image,   latex math image
となります.ゆえに,latex math image, latex math image, latex math image
となり(周期は質量に関係ないことは数学的にも示された!),周期は
   T0 = klatex math image (k は定数)
と表されることが分かります.

さて,定数 k は何でしょうか? latex math imageのとき T0 は約2なので,k はだいたい6くらいのはずです.ニュートンの運動方程式から微分方程式をつくり,解けば
   k = 2latex math image = 6.28318
となることが分かります.この部分は,大学で勉強してください.2latex math image = 6.26311 で 2latex math image に近いことは,興味深いことです.もしかしたら,本当は latex math image = latex math image が成り立っているのではないか? と想像してしまいますが,自然現象はそのように単純ではないようです.