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ケーニヒスベルグの橋(これも数理モデリング)

世の中の複雑な現象の中から、捉えたい情報に関する本質的な部分を取り出し(余計なものは削ぎ落とす),数学的な問題にすることを数理モデリングといいます。基礎理工学科で学べることの1つであるこの数理モデリングを、なるべく簡単に理解するために私自身の専門であるトポロジーというものを例にして述べたいと思います。かの有名な「ケーニヒスベルグの橋」の問題です。

ケーニヒスベルグの橋問題

18世紀の東プロシア(今のドイツ)にケーニヒスベルグという街があり,
この街にはプレーゲル川という川が流れていました。
(この地は現在ロシアの飛び地になっています。歴史的にもいろいろある土地です。)
この川にはクナイホッフ島という中州があり、この島と河岸を結んでいる
7つの橋がありました。(下図参照)

Konigsberg2.jpg

そこで,ある市民が,

 

「同じ橋を2度渡らないで,全部の橋を渡ることができるか?」

 

という問題を出しました。そして,多くの人がこれを試みましたが,誰一人成功する人が
いませんでした。(これは当時の人々の余暇の楽しみとして考えられていた
とも言われています。ちなみにこの街は多くの哲学者や数学者を生んだ街
としても知られています。京都の哲学の道のように「考える」という雰囲気が
ある街だったのかもしれません。)

 

さて多くの人がチャレンジして出来なかったのだから絶対に不可能なのか?
それも分かりませんでした。考えられる全ての歩き方を歩いて駄目なら
不可能と分かりますが、現実に全ての歩き方が本当にすべてなのかの
チェックが必要だし、その数も結構大きい数になってしまいます。

 

そんなときこの問題が時の大数学者オイラーの耳に届きました。
そして彼は1736年に,この問題を数学的に解決して市民の楽しみを奪ってしまいました。

 
 

オイラーの登場

 

さてオイラーの解法を考えてみましょう。

彼はこの問題を考える上では散歩者が島や河岸にいることが分かっていれば、
島や河岸のどこにいようが関係ない、また橋の端を渡るなどということも関係ないことに
気づきいたのでした。これがブレイクスルーでした。
ここで、状況を理想化、単純化します。島や河岸での位置や橋までの距離、
橋の幅や長さなどは関係ないので、島と河岸を黒丸、橋を辺とみなした図を
考えます。(図5 (b)参照。これがモデリング。)
後は「橋」や「河岸」などの言葉を排除して数学の問題にします。

 

「同じ辺を2度通らずに全ての辺を通れるか?」

 

つまり,

 

「この図形は一筆書きできるか?」

 

という問題になります。

Konigsberg2.jpg     Konigsberg-graph2.jpg
(a)(b)

一般的に点と辺からなるこのような図形をグラフといいます。
これからグラフを用いて最初の問題を考えますが,解法としては

 

「一筆書き出来るグラフは点のまわりにくっつく辺の様子がある程度分かる. 」

 

ということがポイントになっています。

 

最初に、スタート地点とゴール地点にあたる点ではなく、一筆書きの途中の点を考えましょう。
一筆書きをしようとしているので,ある辺の上を通ってある点に着いたら
通ってきた辺と違う辺から出て行かなければなりません。(図6(a) 参照。)
これが最初のポイント。この点を出て行ってからまた同じ点に帰ってくるときも
入る辺と出て行く辺は違うものでなければなりません。

ということはもしグラフが一筆書き出来るならば、途中の点にくっついてる辺は
すべて入る辺と出て行く辺の2種類に分かれます
つまり途中の点には偶数本の辺がくっついていることになります。

それではスタートの点とゴールの点はどうでしょう。
これらの点もスタートで出て行くときとゴールで入るとき以外は途中の点とみなせます。
だからくっついている辺の数=偶数本+スタートまたはゴールの時の1本,
つまり奇数本になります。(図6(b) 参照。)

ここで, もう少し考えをめぐらすとスタートの点とゴールの点が同じだったら
偶数本の辺がくっついていることが分かります。

edges-even.jpg    edges-odd.jpg
(a) 途中の点   (b) スタートの点

まとめると, 一筆書き出来るグラフは

 

「奇数本の辺がくっついている点が2個で、残り全部は偶数本の辺がくっついている点である」

 

または,

 

「全部の点に偶数本の辺がくっついている.」

 

ということです。

 

さてケーニヒスベルグの橋の問題に戻りましょう。モデリングした図6(b)の図形を
見てみると4つの点全てに奇数本の辺がくっついています。
一筆書き出来るならば奇数本の辺がくっついてる点は2個のはずだから、(対偶の考え方。)
この図形は一筆書き出来ないということになります。
これで元の問題がモデリングと辺の数の偶奇を調べるという数学的な解法で解けました。

 
 

最後に。

 

この問題は,長さや大きさ,角度などは無関係で,点と線のつながり方だけを問題にしています。
図形のこのような性質(つながり方)を調べる数学を,トポロジー(位相幾何学)といいます。
この「ケーニヒスベルグの橋」の問題がトポロジーという数学の分野の起源となったといわれています。
また点と辺からなるグラフを扱う数学をグラフ理論といいます。
この問題はグラフ理論の始まりともいわれています。グラフ理論は現実の問題に対して非常に応用のある分野として活発に研究されています。

 

例えば皆さんはすでに電車に乗るときに

 

駅が点で線路が辺になっている路線図というグラフ

 

を見て如何に効率よく目的地まで乗り換えるかなんていうことを考えていますよね?
ここで「効率よく」というのが,時間なのか運賃なのかによって考え方が
違っていたりしますよね?

 

皆さんはもうモデリングを経験しています。
これをもう少し数学と一緒に勉強してみませんか?

数学は科学の言語と呼ばれています。いろんな科学を記述するために必要なものだし, それ自体が大変面白いものです。さあみなさん,

 
科学の言語で話してみませんか?